センチメンタル・アドベンチャー
なぜ今この映画なのかというと、今年の正月休みにアメリカ旅行に行ってきたんです。この映画の舞台にもなっているナッシュビルとメンフィスを回ってきました。映画の舞台の地を訪れたら、もう一度画面で確認したくなるのが人情というもので、本日DVDで再鑑賞していたわけです。地味な映画ですがなかなか味のあるいい作品なのでご紹介しときます。1982年、アメリカ映画です。
ストーリーは、肺病を患ったローカルなカントリー・シンガーである主人公(クリント・イーストウッド)が彼の甥とその祖父との3人で名物ラジオ番組「グランド・オール・オープリー」のオーディションに参加するためにナッシュビルを目指すというもので、所謂ロード・ムービーであります。私はこのロード・ムービというジャンルが大好きです。登場人物と共に旅を擬似体験することができるからです。話は逸れますが、見たことのない景色、文化に触れることが楽しくて私は映画を観ている気がします。昔から私は日本映画にあまり興味が沸かないのですが、その理由は母国日本が舞台の映画ではこの「旅の疑似体験」の色合いが必然的に薄くなるからなのだと思います。
「センチメンタル・アドベンチャー」という邦題が昔からどうもしっくりこないのです。公開当時はロード・ムービーという言葉がまだ一般的ではなかったのかもしれません。「旅」を想起させる言葉ではなく「冒険」と題してしまったのは当時の映画会社の戦略だったのでしょうか。なにしろ地味な映画ですから。
原題の「HONKYTONK MAN」というのは劇中でイーストウッドが歌う曲のタイトルでもあります。このミディアムテンポのワルツがまたいい曲なんですね。私がこの映画を初めて観たのは中学生の時我が家にビデオデッキが初めて導入され、各局の深夜枠の他、テレ東の昼2時ぐらいから放送していたやつまで、くまなく映画をエアチェックしては片端から観ていた時代、網に掛かった一本でした。ストーリーの細部は忘れてしまってもこの曲の旋律だけはずーっと憶えていたものです。
映画界におけるイーストウッドはもうこれ以上ないというぐらいに成功しているスーパースターですが、音楽への造詣も深いことで有名です。この映画でも自らヴォーカルを披露し、ギターを弾き、ピアノをプレイする姿を観ることができます。主人公の甥であるホイット役は彼の息子のカイル・イーストウッドが演じています。この映画の影響かどうかは知りませんが、現在はプロのジャズ・ベーシストとして活躍しており、日本でもソロ・アルバムが発売されています。余談ですがかなりイケメンです。有名ミュージシャンのカメオ出演もあり、オープリーのオーディションでイーストウッドの前に歌っているのは惜しくも昨年亡くなってしまったポーター・ワゴナーです。
基本的に軽いタッチの作品ではありますが、随所に興味深い箇所が見受けられます。イーストウッド扮するレッドは飲んだくれで、人の奥さんに手を出しては捨てたり、その女性に子供ができた事を知ってまたのこのこ会いに行って旦那連中に袋叩きに遭ったりしている、ホントにしょうもない人間です。ですが彼の音楽に対する姿勢には好感が持てます。レッドの音楽スタイルのベースはカントリーなのですが、彼はメンフィスのビール・ストリートにある、出演者も客も全て黒人というクラブでブルースピアノを弾いているのです。また、オーディションの審査官に「ブギはダメだ」と言われた時、非常に複雑な表情をします。つまりレッドは音楽的には非常にピュアで、いいものなら人種、スタイルに関係なく吸収していくタイプの男です。そして彼の表情からは保守的で旧体質なカントリー界への皮肉が読み取れます。
また、ホイットの祖父であるジョン・マッキンタイアがいい味を出しています。彼は残り少ない余生を生まれ故郷のテネシーで送りたいという理由で旅に同行します。ホイットの隣の助手席でコーラを飲みながらサンドイッチを頬張る姿は実に微笑ましいものがあるのですが、最後に一人バスに乗り故郷へと旅立つ彼の表情には単純な安堵とはかけ離れた陰りが入り混じっています。彼の郷愁の念とはどのようなものなのでしょうか。無事に故郷に帰り着いて残りの人生を幸せに過ごせたのか、とても気になります。
最後に現在のライマン公会堂です。映画に出てきたとおりだったなぁ。
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